シャドウ・ワーク、「名もなき家事」とSREの「トイル」

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Q by Livesenseで 誰も手をつけたがらない仕事を拾う親切心とその危うさという記事が出た。

SRE サイトリライアビリティエンジニアリング にある「トイル(Toil)」という概念を自分はとても気に入っている。 名前をつけ、計測し、メンバー間で偏らない様にチームで調整したり自動化・改善のための時間を作ろう、というところが好きだ。

SRE の原則に沿ったトイルの洗い出しとトラッキング

「トイル」はエンジニアリングにおける用語だが、何が「労苦」であるかということを定義して意識し、どうやって改善すべきか考えるというのは、多方面に広げられるのではないかと思っている。

近年聞くようになった「名もなき家事(Nameless chores/Unnamed housework)」という言葉がある。これとトイルには似通ったところがあると思う。

賃労働と無報酬労働という大きな違いはあれど、割り込み作業であったり、設計の問題で繰り返し発生したり、手作業で繰り返されたりというところが似ている。 また、暗黙的に「善意の、経験豊富な、自ら進んで手を上げたわけではない誰か」にボールが偏りがちなところもよく似ている。 拡大に応じてどんどん増えていく割りに、積極的に洗い出しを行わなければトラッキングできないところも似ている。

こういう仕事を「尊い仕事、どんな仕事も大事」と言って、形式的に感謝の言葉をかけたり表彰したりするのは一種のごまかしだと思う。

誰かが不本意でやっていることや、気づいた人の損だと見て見ぬ振りをされる仕事は、できるだけ自動化したり楽な仕組みをつくりたい。

またそれがかなわないものは、せめてチーム(プライベートなら家庭)で「これってトイルだよね。仕組みで改善していこう」という合意を持ちたい。


ただ、それでもやらなければいけないこと、拾わなければいけないボールはどうすべきなのか?

たとえば家庭であれば、そもそもチームは限られた人数になり、無報酬でマネージャーも評価者もいない。 また育児や介護、健康に関することなど、長期的に取り組むべきこととそうでないことの区別がつけづらいものも多い。

仕事の場合でも、どうしても必要な雑務や、エンジニアリングするよりも人間がやった方が遥かに安上がりな作業などの大量のオーバーヘッドが存在する。

この様な仕事を非正規雇用の社員を雇って割り振る場合は多くある。賃金は抑えられ、評価も昇級もない職種で、割合として女性が多い。 家庭におけるシャドウ・ワークを女性が多く受け持っているという現実とこれを比較して考えざるを得ない。

暗黙的なボール拾いは「落ちているボールに気づく人」が不利なのか。「落ちているボールを拾う人」には生まれついた性質があるのか、ボール拾いという役割を社会的に身につけたり、すりこまれていくのか。

個人的に省みると、ボール拾いは社会的に身につけてきた習慣のように思う。もっとエンジニアリングしていきたい。